今回は前回にひき続き、「英語」に関する小話をもう一つ。これも福岡先生の「できそこないの男たち」からの抜粋です。この話もある国際学会で先生自身が教えて貰った小話だそうです。少々長くなりますが、おもしろくて読み易いので本の原文通り書き写します。

昔々、あるところにネコとネズミが住んでいました。物語の例にもれず、ネコは意地悪でずるく、ネズミは賢くて敏捷でした。ネコはネズミを追廻し、いつか捕まえて食べてやろうと考えていました。が、これまたお約束通り、ネズミはすばやく走り回って、ネコに一泡ふかせ、いつも逃げおおせることに成功していました。

ある日の事です。ネズミが路地を警戒しながら歩いていると、案の定、ネコが向こうの角に現れたのが見えました。ネズミの姿を捉えたネコはいきなり猛ダッシュしてきましたが、ネズミの敏捷さの方が一枚上手です。知り尽くした細い通路を縦横無尽に走り回ってネコをまこうとします。しかし、今回はネコも必死です。いつもコケにされている借りを今日こそは返してやるとばかりに、ぐんぐん追いかけてきます。

かなり長い間チェイスを続けましたが、ネコはあきらめる気配がありません。ネズミはだんだん疲れてきました。スタミナではネコの方が上です。そこで、ネズミはとっさの機転を利かせて小さな穴に飛び込みました。穴は行き止まりでしたが、ネコが入ってこられるほど大きくはありません。

ネズミは穴の奥で籠城することにしました。そのうち奴もいい加減飽きて、お腹をすかせてどこかへ行くだろう。ネズミは耳を澄ませて外の気配をうかがいました。どうやらネコは、穴のそばに身を隠してじっとネズミが出てくるのを待っている様子です。油断して一歩でも外に出ればいきなり飛びかかってくるつもりなのです。あぶない、あぶない。こうなれば持久戦です。ネズミはじっと身を潜めて待つことにしました。

どれくらい時がたったでしょうか。外の光が傾いた様子からすると、おそらくかなりの時間が経過したはずです。うとうとしかけていたネズミは外の物音ではっと目を覚ましました。「ワン、ワン、ワン、ワン!」あ、あれはイヌのジョン君の声だ。助かった。彼がやってきてネコを追い払ってくれたんだ。お礼を言おうとネズミは穴の外へ出ました。と、そのときです。ネコが一気に飛びかかって、その鋭い爪でネズミを押さえたのです。ネズミはネコの前足の下で苦しそうにもがきながら言いました。

「あれ? ジョン君はどこ? 助けに来てくれたんじゃなかったの」                      意地悪なネコは勝ち誇ったように言いました。

「きょうび、2ヶ国語くらいはしゃべれないと世の中やっていけないのさ」