今回から、中室牧子氏著「『学力』の経済学」の記述の中から傾聴すべき幾つかのテーマについて、数回に亘ってご紹介します。氏の専門は教育経済学で、教育を経済学的な手法で分析する事です。氏は本書の中で、教育の分野で自ら実験を行い、又は他者により行われた実験を引用し、得られた統計学的に有意な科学的根拠に基ずいた事実を数々紹介し、教育の在り方等々について提言をしています。以下、氏の表現を原則そのまま紹介します。

今回はまず第1章 他人の”成功体験”はわが子にも活かせるのか?からです。

日本では、教育を受けたことが無い人はいないので、教育について一家言あると言う人は少なくありません。まさに「一億総評論家」状態だとも言えるのです。・・・・・・・もちろん「子育てに成功したお母さんの話を聞きたい」と言う欲求自体に問題が有る訳ではありません。しかし、どこかの誰かが子育てに成功したからと言って、同じ事をしたら自分の子どもも同じように成功すると言う保証は、どこにもありません。・・・・・・子どもの成功にはあまりににも多くの要因が影響しているからです。・・・・・・

教育経済学者の私が信頼を寄せるのは、たった一人の個人の体験記ではありません。個人の体験を大量に観察する事によって見出される規則性なのです。・・・・・・・

そしてこれからの日本を背負って立つ子ども達、彼ら彼女らを育む上で大きく関わる仕組みや基本的な理念を示す教育行政に対して、氏は次の様に述べています。

日本ではまだ、教育政策に科学的な根拠が必要だという考え方はほとんど浸透していないのです。・・・・・・・どこかの誰かの成功体験や主観に基ずく逸話ではなく、科学的根拠に基ずく教育を。経済学者(私)は、そう提案しているのです。